メルセデス・ベンツ

旧世代メルセデスW124やW140のマルチリンクサスを完全再生させる!

W124型EクラスやW140型Sクラスなど旧世代のメルセデス・ベンツに採用されるマルチリンク式リアサスペンション。これを再生させるためにはアームやリンクの交換だけではなく、もうひとつ重要なポイントがあります。この記事では、旧世代メルセデスが持つ乗り味を完全再生させるメンテナンスについて解説します。

目次

W124型EクラスやW140型Sクラスなど旧世代のメルセデス・ベンツに採用されているマルチリンク式リアサスペンション。スラストアーム、ストラットアーム、キャンバーアーム、タイロッドの4本のリンクに加えて、重要なポイントになるのが一番下側にあるスプリングリンクである。ボディ側のブッシュは打ち換えができるので、ここまでやって完了とするケースもあるようだが、実はその反対側にあるナックルのベアリングがマルチリンクのキモとなる部分なのだ。ハブやナックルを支えるように装着されているスプリングリンクは、関節のように動く4本のリンク以上に複雑に動くため絶えず負担がかかっている。ここを交換しなければマルチリンクの完全再生とは言えないのだ。
このベアリングはガッチリと圧入されていることから交換には専用のSST(スペシャル・サービス・ツール)が必要になるが、それでも作業が大変な部分。もし、SSTがなければナックルを取り外してプレスでベアリングを抜くというかなりの大仕事になってしまう。そのため、SSTを持っていない修理工場ではここを交換しないケースがあるのだ。しかし、それでは完璧な仕上がりにはならない。
撮影時に劣化したベアリングを取り外してみると、ブーツが破れ、ボロボロの状態になっていた。一番多い症状としては破れたブーツから水が侵入し、サビなどで内部が破損してしまうケースが多い。この状態で乗り続ければ段差を乗り越えたときに異音が出たり、タイヤの偏摩耗を引き起こすなどの悪影響が出る。せっかくリンクを新品にしても、リアサスペンションの違和感を解消できないのだ。さらにブーツが切れてグリースが漏れ出していれば車検をパスすることさえもできない。もちろんフィーリングにも悪影響を及ぼす。試しに外したベアリングを動かしてみると簡単に動いてしまうほど劣化していた。サスペンションの遊びが増えればフィーリングは確実に悪化する。それだけ重要な部分ながらこれまで軽視されてきたのは、SSTを持っていなかったり、面倒だからという理由なのだろうか。それともユーザー側の予算の問題というのもあるのかもしれない。いずれにせよ、マルチリンクの再生は4本のリンクとスプリングリンクのブッシュ、そしてこのベアリングを交換してこそ完全再生となることを覚えておきたい。

ナックルにガッチリと圧入されているベアリング。点検がしにくいポイントだが、これを交換せずにマルチリンクサスペンションの完全再生とは言えない。

リアサスペンション回りで
忘れられない重要ポイントとは?

もうひとつ旧世代メルセデス・ベンツのリアサスペンション回りで見逃せないのが、サブフレームマウント。例えばW124型Eクラスにはリアに強靱なサブフレームが装着されているが、それを支えるのがサブフレームマウントである。エンジンマウントのようにオイル封入式となっているのだが、ここも経年劣化により走行フィールに悪影響を及ぼすのだ。それだけ重要なメンテナンスポイントながらあまり注目されないのは、ほとんどがサブフレーム内部に圧入されていて見えないからだろう。だが、W201やW124などの旧世代のメルセデスは、年式から見ても劣化していることは間違いない。
実際にサブフレームマウントを取り外し、劣化の状態を確認してみる。横から見ると周囲に刻まれた溝が潰れているのが分かる。撮影車両はまだひどくはないが、やはり劣化しているのを確認できた。サブフレームを支える大切なゴムマウントが劣化してガタが出れば、間違いなく走行安定性は低下する。旧世代メルセデスの魅力である路面に吸い付くように走るというフィーリングを生み出すのは、マルチリンクサスペンションだけではなく、サブフレームマウントによるところも大きいのだ。
これを交換するにはSST(スペシャル・サービス・ツール)が必要だが、リフトアップした状態でボディとサブフレームの間に空間を作れば入れ替えることができる。SSTがなくても足回りをすべて外してデフも降ろし、フレームを車体から降ろせば交換は可能。フレームを外したついでにサビ止めを塗布することもできるが、工賃が割高になるのは否めない。予算を重視するならSSTがある修理工場に依頼したい作業だと言えるだろう。
マルチリンクサスペンションに加えて、サブフレームマウントやショックアブソーバーを交換すれば、以前とは比較にならないほど乗り味は劇変する。W124やW140などの旧世代メルセデスが持つ走りがどれほど素晴らしいかを実感できるのだ。一度手を入れれば当分は持つので、とことん愛車と付き合っていくなら、ぜひやっておきたいメニューである。

 

エンジンマウントのようにオイル封入式となるサブフレームマウント。左の新品と比較すると明らかにその違いを確認することができた。知らない間に劣化は進んでいる。

この記事をシェアしよう!

この記事が気に入ったらいいね!しよう

Maintenance Lab Archiveの最新記事をお届けします

BACK TO LIST