ATFやエンジンオイルが熱で劣化する。――では、その周辺に使われているゴムや樹脂パーツは?
答えはもちろん「同じくダメージを受ける」。しかも、パーツの劣化はオイル漏れやトラブルの“連鎖”につながることも。今回は、熱害によるゴム・樹脂パーツの劣化に注目し、その影響と対策を深掘りしていきます。
目次
ゴム&樹脂は「熱」に弱い。しかも“静かに”進行する
「オイルが漏れ始めた」「LLCが突然噴き出した」――そんな経験はありませんか?
それ、単なる経年劣化ではなく、“熱害”によるサイレントダメージかもしれません。
エンジンルームでは、エキゾースト周辺やトランスミッションケースなどが高温になり、**輻射熱(ふくしゃねつ)**がゴムや樹脂パーツをじわじわと傷めていきます。
使用される素材とその限界
素材名 | 主な使用部位 | 耐熱温度の目安 |
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ポリアミド(PA) | ラジエタータンク・ファンシュラウド | 約140℃ |
ABS樹脂 | サブタンク・内装部品など | 約100℃ |
NBRゴム(ニトリル) | ホース・パッキン類 | 約120℃ |
これらは短期的には問題なく耐える設計ですが、10年・15万kmという輸入車の“リアルな使用環境”では劣化が避けられません。
具体的な熱害ポイントと症例
以下は、実際に報告された熱害由来のトラブル事例です。
《CASE 1:BMW E60 V8エンジン》
症状:オイル漏れ→足回りブッシュ溶解
タペットカバーパッキンの劣化による漏れが原因。垂れたオイルがロアアームのブッシュを侵し、ハンドリング異常・車検不合格につながったケース。
《CASE 2:ベンツ W221 サブタンク割れ》
症状:突然の冷却水吹き出し → レッカー搬送
冬場(外気温8℃)にも関わらず、テスト時のサーモハウジング周辺温度は100℃超。年式とともに脆くなった樹脂タンクが内部圧に耐え切れず破裂。
《CASE 3:VW ゴルフ6 DSGミッション》
症状:セレクター誤動作
セレクター周辺のコントロールユニット内に湿気混入。防水ゴムシールの劣化と熱での密着力低下が原因と診断された。

熱害対策|「守る」「逃がす」「交換する」
● 純正での熱対策例
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メルセデス:エンジンマウント上に遮熱板
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BMW:高温部のホースをアルミスリーブで保護
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Audi:ヒートシールドにダクト設計を追加
● 実用的なオーナー対策
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耐熱スリーブの後付け:後付けでも効果あり。特にタービン周辺やATオイルラインのホース部に。
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LLCタンクなど樹脂製品の事前交換:10年・10万km前後が目安。劣化サインは肉眼で見えにくいため、予防的交換が◎。
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OBDスキャンで油温チェック:診断ツールでATF・油温をチェックし、異常な高温傾向があれば早めの点検を。
熱害は、見えないうちに進行し、大きな修理費用につながるリスクです。「うちは大丈夫」ではなく、“見えないトラブル”に備える習慣が、輸入車ライフを長く快適に楽しむコツです。
※メーカーによる熱対策の一例です。

