メルセデス・ベンツ

【おすすめ】熱害とATの深い関係

― ゴムシールは本当に“膨らむ”のか? 実験で見えたATFの知られざる役割 ―

輸入車に限らず、すべてのAT車において避けて通れない「熱害」。
前回はATF(オートマチックトランスミッションフルード)温度とミッションの寿命の相関についてご紹介しました。今回は、そこから一歩踏み込み、「ATFの添加剤」、とくに**“膨潤剤”**に注目し、実際に行ったテスト結果をもとに、より実用的なメンテナンスポイントをお伝えします。

目次

ATFは単に潤滑と冷却を担うだけではありません。内部のシフト操作を制御する油圧系の作動油でもあり、さらに、各部のゴム製シールやOリングの柔軟性を維持するための成分も含まれています。

その中でも「膨潤剤(Swelling Agent)」と呼ばれる添加剤は、ゴムシールを“わずかに膨張”させて密着性を高め、オイル漏れを防ぐという極めて重要な役割を果たしています。

実際にどの程度の効果があるのかを確かめるため、以下のような簡易実験を行いました。

▶ 実験内容(上写真):

  • 新品のゴムシールを2つ用意

  • 一方はATFのみ、もう一方は膨潤剤を高濃度に含む添加剤を混ぜたATFに2時間浸漬

  • その後、直径の膨張を比較

▶ 結果(下写真):

添加剤入りATFに浸したシールは、直径が約3mm膨張。明らかに膨らみ、目視でも差が確認できました。
これはつまり、膨潤剤がしっかり作用している証拠であり、劣化したATFではこの効果が期待できないという裏返しでもあります。

新品のパッキンと比較してみると、見た目に も膨らんでいるのが確認できた。触った感じ はあまり変わらない。AT 内部で使われているゴムパッキンをATFに長時間浸してみた。どれだけ膨らむのかが気になるところだ。
新品のシールが33㎜であったのに対して、ATFに浸したシールは36㎜。つまり3㎜膨らんだことになり、もし装着状態であれば密着度が高まったということになる。

熱によるATFの酸化や粘度低下が進むと、含有される膨潤剤の効果も弱まります。
その結果、シールは本来の弾力や密着性を失い、「滲み」や「漏れ」といった現象を引き起こします。

このような“にじみ”は一見たいしたことがないように見えても、ATFが減る→油圧が安定しない→変速ショックやスリップが発生→AT本体にダメージという負の連鎖に繋がる可能性があるのです。

ATFを無交換のまま約14万km走行したBMWで、シールの劣化によるオイル漏れが発生
結果的にトランスミッション本体を交換する高額修理となりました。

オーナーが今できる“手遅れにならないための予防策”

  1. 走行6〜7万kmでのATF交換(メーカー非推奨でも実施するユーザーも増加中)

  2. ATF添加剤の活用(膨潤効果を補うために一定の効果あり)

  3. 熱害対策としてのATFクーラー増設(とくに高温地域のユーザーにおすすめ)

輸入車の特性を理解したプロに任せるべき理由

輸入車のATは、国産車に比べ油温管理やオイル性能への依存度が高い設計が多く見られます。部品単位で見ると、欧州車は高性能な反面、部品単価も高額
ちょっとしたオイル漏れでも、「Assy交換」=数十万円コースになることも少なくありません。

そこで、熱害やAT周辺整備に知見のある整備工場への相談が重要となってきます。

最後に

熱は静かにATの寿命を蝕みます。**“症状が出る前に手を打つ”**ことが、愛車を長く大切に乗る秘訣。
ちょっとした情報が、大きな修理代を未然に防ぐこともあります。
ぜひ今後も、正しい知識と信頼できる整備環境を手に入れてください。

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