FEATURE 輸入車整備特集

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維持に役立つ情報を修理工場からお届け!Maintentance Topic
一人一日一基のATをオーバーホールするプロ集団

ATサービス東北も重要視!
AT修理の要は初期診断にあり

ATは非常に便利な機械であるが、MTよりも構造が複雑なためトラブルが多いのが玉にキズ。変速不良でオーバーホールなんてことになれば、その修理費用は高額に……。でもちょっと待って! そのAT、本当にオーバーホールが必要ですか?
FACTORY DATA
AT サービス東北 丸福自動車
AT修理専門の「ATサービス東北」と輸入車整備
の「ABMラボ」の二つの顔を持つ丸福自動車。二部門が連携することで、トータルなメンテナンスを可能にしている。
所在地 岩手県北上市口内町新町70
電話 0197-62-4080
FAX 0197-69-2114
HP http://www.atservice29.com/
営業時間 8:30~17:30
定休日 日曜日・祝日・第2土曜日

問診・試乗・診断機 最初の見極めが大事

初めてATが市販車に搭載されてから70年以上。ATは機械式から電子制御になり、CVTやDCTが登場するなど長足の進歩を遂げたが、どれにしてもトラブルの発生する基本的な理由に大きな差はない。ATにはMTのクラッチと同様の摩擦材を使用した部品が数多くあり、それらが消耗すると変速不良が起こるのだ。また、摩耗だけでなく一部が剥離して変速不良になるケースもあり、さらにはその剥離した破片がATFに混ざり油圧経路を塞いでしまうことも。これはもう構造上の問題で、摩擦材を削りながら変速しているようなものゆえ、ATは遅かれ早かれオーバーホールしなければならない機械なのである。
 と、大袈裟にいってはいるが、ATが不調だからといって必ずしもフルオーバーホールしなければならないわけではない。前述のようなことになってしまえばもちろん必須だが、ATには多くの補器があり、それらのトラブルもまた変速不良を引き起こす可能性があるのだ。メルセデスの5速ATでよくあるコンダクタープレートの不良などがよい例だろう。あるいはバルブボディのオーバーホールだけで直るようなケースもある。そのあたりの見極めが難しいのがAT修理の難点であり、説明を受けても素人には分かりづらいところだ。

  • およそ2000基のAT/CVTがずらりと並ぶ倉庫。オーダーがあれば、これをベースにリビルドして出荷する。
  • 溶接で密閉されているトルクコンバータを分解して修理する工場は少ないが、ATサービス東北では専用の部屋まで用意されている。
クラッチドラム内のリターンスプリングを縮めて外すためのスプリングコンプレッサー。ミッションオーバーホール室にはAT修理に必要なSSTが数多く用意されている。
「まず最初にお客様の運転するクルマに同乗して、どう調子が悪いのかをヒアリングすることから始めます」と語るのは、AT修理で名を馳せるATサービス東北・丸福自動車の小笠原皇課長だ。曰く、オーナーはずっと乗っているから少しずつ調子が悪くなってきていることに気づきにくく、また、他の同じ車種に乗ったことのある人は少ないため、元々の状態を知らないことが多いそう。「変速ショックが気になるというので乗ってみたら、正常の範囲内だった」ことも多々あるのだとか。
 達人はATFの色を見ただけで原因が分かる! などとまことしやかに言われるが、同社では問診、同乗、試乗の後にコンピュータ診断と直接の点検にたっぷり時間をかけて原因を特定する。何でそんなことをするかというと、誤った診断で不要な修理をしないため。つまり、少しでもオーナーの出費を減らすためである。実際、他の工場でATの分解を勧められたクルマをよくよく調べてみたら、コンピュータの再セッティングだけで完治したという例もあるとか。
クラッチドラム内のリターンスプリングを縮めて外すためのスプリングコンプレッサー。ミッションオーバーホール室にはAT修理に必要なSSTが数多く用意されている。

前段階に時間をかけられるのは、その後の作業が速いから。同社のスタッフは一日一基のATをオーバーホールするという。他ではあまりしないトルクコンバータのリビルドまで行ない、倉庫にはリビルド済みのAT/CVTが2000基以上も陳列されている。そんなATのプロフェッショナル集団ですら気を遣うのが最初の診断であり、そこをしっかりとしているからこそ、他の整備工場からの依頼がひっきりなしなほど同社は信頼されているのだろう。昨今の輸入車はコンピュータ診断機でのテストやセッティングが不可欠なため、車両ごとの入庫が必要となるが、来るべきATの不調に備え、ATサービス東北・丸福自動車の名は覚えておいて損はないはずだ。

  • プラネタリーギア、リングギア、ピニオンギアなどの外されたパーツが片隅に整然と並べられた作業テーブル。基本的に一基のATにつき一つのテーブルで作業する。
  • 組みあがったATは非常に重いので、ローラーで動かしながら最終の点検を行なう。内部に組み込まれたオレンジ色のパーツがトルクコンバータだ。
細かいパーツを一つ一つ外し、チェックして洗浄する。問題がある部品は交換し、使えるものはそのまま再利用する。細かい作業だけに、クルマの仕組み、整備に詳しい人よりも手先の器用な人が向くという。
組みあがったATがきちんと作動するか、オイル漏れなどがないかを確認するベンチテスター。もちろんテストはATFを充填してから。